D列車でいこう(阿川大樹著)

阿川大樹(あがわ・たいじゅ) 『D列車でいこう』
徳間書店 1785円




★廃止が決定したローカル線を建て直す話。建て直すのは、たった3人の民間人。ひとりは鉄道オタクのリタイア官僚、田中58歳。もともとエリート官僚だったが天下りを繰り返しているうちに、そのたびにもらう退職金で気がつけば貯金は2億円。何だか嫌気がさして天下り先を辞めてしまった男。妻にも先立たれてその保険金でローンも完済、年金もあるからそんなに財産も必要ないことだし、大好きな鉄道のために貯金をはたく決意をする。このローカル線の赤字は年間3000万円。2億円あれば6年くらいはもつ計算になるが、それでは意味がない。単なる延命ではなく目指すところは建て直し。

★そこで出世コースを外れた55歳の銀行の元支店長、河原崎を仲間に引き入れる。良心的な融資で地元の町工場を育ててきた支店長だったが、子会社の消費者金融への出向を命じられてしまう。良心的な融資を誇りに仕事をしてきただけに、個人債務の取り立てという仕事にはどうも釈然としないものを感じ悶々としているときに、ローカル線建て直しの話を持ちかけられて、参加を決心する。3人目はその部下のキャリアウーマン、由希。MBAを取得した、才色兼備の32歳。総合職ながらやりがいのある仕事を与えられず不本意な想いを抱いているときに、元支店長に誘われて参加する。この3人が新会社ドリームトレインをおこして田舎町に乗り込み、幾多の困難を乗り越えてローカル線の再建に取り組んでいく。

★当然ながら赤字のローカル線の再建は容易ではない。地元の人たちも2億円出してくれるならそれでいいというわけではない。今つぶれるのを6年後に先送りにするというのでは納得できるはずもない。そこで3人は次々に新しいアイディアを出していく。

★そのアイディアの一つ一つがこの小説の肝なのだが、それを全部話してしまうわけにもいかないのでひとつだけ言うと、、、問題はいかに地元以外の客を外から呼び込むか。そのためのアイディアのひとつが、鉄道オタクのための事業。鉄道オタクの市場規模は非常に大きい。その鉄道オタクたちのために実際に鉄道を運転するための資格講座を開設、100万円の講習料を払ってもらって憧れの運転士になれるという企画を考える。しかし監督官庁の国土交通省がそれを許さない。この官僚の壁をいかに崩していくかが読みどころの一つ。

★帯にも「ロマンチックビジネス小説」とあるように、現代の経済小説だ。 もう一つの側面は、リタイア官僚の田中が五十八歳、銀行支店長の河原崎が五十五歳であること。六十歳を間近にしている男たちである。通常なら人生の終盤期にいる男たちといっていい。だが、何も人生がこれで終わったわけではない。後進に道を譲って隠居すること以外にもまだ道はあるはずだ、という思いの中に彼らはいる。つまり、彼らがいまの仕事をやめてまで会社をおこすのは、若き日の楽しかった仕事の日々をもう一度取り戻す試みにほかならない。すなわち、新しい人生へのチャレンジ。それがロマンチックな香りを漂わせているのは、紅一点、MBA取得の銀行ウーマン由希も一緒に退職して会社設立に参加するからである。こうして夢いっぱいの仕事の日々が始まるのである。

★次々に繰り出されるアイディアが秀逸。全国のローカル線が実行すればいいのにと思うほど。また、主人公たちと同世代の人が読めば自分の人生はまだ終わってないんだ、と勇気が出てくる新しいタイプの経済小説。

(TBSラジオ森本毅郎スタンバイより)
この記事へのコメント
はじめまして。
こんにちは!

素敵なブログですね。
更新楽しみにしています。
また遊びにきますね。
Posted by ユニカチャン at 2007年06月03日 22:31
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